私は作・編曲を生業としている。
吹奏楽やビッグ・バンド関係が多いが、オーケストラや室内楽も書く。
18歳から50歳頃までは、ビッグ・バンドやジャズ・コンボでトロンボーンを吹いていた。
若い頃の私は音楽をよい音で聴きたいという一心で、少しはオーディオにも凝って、真空管アンプやスピーカー・ボックスを自作したりもしていた。
しかしこの10数年、好きなJazzも映像と一緒になったDVDやブルー・レイが多いのでテレビで観るし、クラシックはCDもさることながら「ベルリン・フィル・デジタルコンサート」にも加入しているのでテレビで音楽を聞く方が多い。
無数にあるCDは仕事部屋のPCのiTuneに取り込み、ヘッドフォンで聴いている。
つまり、オーディオ・システムは持っていないのだ。
テレビはSONYの46インチを純正のスピーカー内蔵テレビ台に乗せて使用しているが、その音にはずっと不満があった。
もちろんテレビ内蔵のスピーカーに比べれば相当によい音だと思うのだが、何かスッキリせず、もっと良いスピーカーはないものかと探していた。
音に詳しい友人に聞くと、やはりアンプとスピーカーをちゃんとして、オーディオ・システムを構築しないとだめだと教えられたが、
あまり広くはないリビングに大げさな装置を持ち込むのは嫌で躊躇していた。
そんな時、インターネットでタイム・ドメイン理論による「ボザール Marty101」というスピーカーを知り興味を持った。
早速購入しテレビに接続、その音を聞いて驚いた。
今まで聞いたことのないクリアーで生々しい音なのだ。
まず感じるのは音のレスポンスの良さで、特に打楽器では顕著に感じる。
その結果として、同じ録音でも、普通のスピーカーに比べてリズムのノリが良くなる。
そして不要な余韻が残らないため、録音した場所固有の響きの雰囲気まで伝わってくる。
そのリアルさは、豊かな音場感と音の広がり、そして定位の良さと相まって、コンガやクラベス等のパーカッションが部屋の違う場所にいるように感じて、
思わず後ろを振り向いてしまったり、テレビドラマの中での「ピン・ポーン」というインターホンの音に反応して、受話器を取ろうとしてしまったりした。
なるほど「これがタイム・ドメイン理論の正しさか」と思うと同時に、多くの諸氏の感想に出てくる「あれもこれも聴いてみたくなる」ということなのだと思った。
つまりリズムの快感が、いろんな音楽を聞いてみたいという気持ちにさせるのだと思う。
さて「Marty101」を購入して約1ヶ月半後、ボザールの栗田様から、上位機種である「Jupity301」を試聴してコメントしてほしいというありがたいお申し出があり、
2つの機種を聞き比べるチャンスに恵まれた。
やがて「Jupity301」が届き、早速並べて設置し、同じ音源を交互に聴いてみた。
両機とも区別がつかない程似た音だが、「Jupity301」の方がより引き締まったタイトな音質で、若干だが低音の量感が増している感じがし、
全体的に品位が高いという印象を持った。
私はジャズ、クラシックを問わず、いろいろ聴いてみた。
まずクラシック・オーケストラだが、すべての楽器がリアルで各楽器の分離が良い。
弦楽器の場合、弓で弦を擦る音が生々しい、つまり粒立ちが良いため発音原理が目に見えるようだ。
また管楽器も、それぞれの音色がリアルなのに加えて音の定位が良いため、木管楽器が一丸となってのSoliでも各楽器が団子にならずに聞こえてくる。
フルート、オーボエ、クラリネット、バスーン等がそれぞれの音色で聞こえる(しっかりとブレンドした上で)。
特にビッコロの高音は圧巻だ。
金管楽器のフォルテッシモではタンギング(発音する時の舌突き)時のキラキラとした音が気持ちよく聞こえてくる。
そしてパーカッションだが、普通はドロドロとした、ただの太鼓の音になりがちなティンパニーは、はっきりとした音程感と、皮の弾力を感じるような躍動感が出る。
シンバルやグラン・カッサ(大太鼓)も気持ちのよい音で、ザイロフォンやグロッケンシュピールが特に生々しい。
驚いたのはドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」を聴いた時だった。
普段は気にもとめていなかった《アンティーク・シンバル》の音が鮮明に響いたのだ。
一瞬、耳を疑うような美しい音で、ドビュッシーがグロッケンやチェレスタではなく、わざわざ《アンティーク・シンバル》を使った理由が判った。
また、ピアノやアコースティック・ギターの音も優れていて、クリアーで実に気持ちのよい音がする(アール・クルーのナイロン弦は、しっかりナイロン弦の音がする)。
これは音の立ち上がりが早いためだと思うが、ギター同様、弦を引っ掻いて音を出すチェンバロもリアルな筈だ。
最初に接続した時の印象では、低音が少ないかとも感じたのだが、よく聞くとしっかり出ている。
ジャズのピアノ・トリオのベース・ソロの部分で実感出来るが、十分な音量に加えて、音程の明瞭さやピッチカートの弾むような音が実に魅力的だ。
よく考えてみると、コンサート・ホールでもジャズ・クラブでもベースの音量はこの位のバランスなのだ。
ロックのライヴ等でのベースの電気的に強調された大音量は不自然であって、例えば「辛さ100倍カレー」のようなもので、
感覚が麻痺した人達が好むものだと思う。
ボザールの栗田さんの説明では、このスピーカーは下は120Hzまでしか出ないということだったが、その1オクターブ下の60HzのA音、いや、もっと低い音も十分に聞こえてくるから不思議だ。
もう一つ、「Marty101」「Jupity301」の特徴として、映画やドラマのセリフが、とても明瞭に聞こえるということが挙げられる。
近年は少し年をとったせいか、特に若いタレントさんの、滑舌の悪い早口なセリフは聞き辛い時があり音量を上げていたが、音量を上げなくても明瞭に聞こえてくる。
これまでのスピーカーとボザールのスピーカーの差は、例えて言うと、テレビがアナログ放送からデジタル放送に変わった時の印象に似ている。
何かモヤモヤしたベールが一枚剥がされたような透明感というか爽快感があるのだ。
現在、私は「Jupity301」をメインに、時々「Marty101」に接続して楽しんでいるが、この「Marty101」「Jupity301」で音楽を聴くことが楽しくてしょうがない。
また、近いうちにボザールさんの事務所にお邪魔して、タイム・ドメインの最高機種である「Yoshii9」をぜひ聴いてみたい。
(尚、私は電源をヤマハPA-6に、接続コードをBELDEN8412にして使用しているが、僅かだがよりタイトな音になった感じがする)
――レビュー、ありがとうございました。
Jupity301が届いてからDVDやブルー・レイの音を聴き比べていたのですが、そういった音楽ソフトだけではなく、テレビの番組でもいろんな音が入ってるのがわかりましたね。
インタビューの場面なんかで人の声を撮っているんだけど、背景の音が入ってるんですよね。それが聴こえるんですよ。
いままでこんなの聞いたことないなと思ってね。こんな音が入ってたんだぁって。
――デジタル放送になって、映像だけでなく音も良くなったんですよね。
今の技術はいい音が入ってるんだけど、残念ながら再生する方はイマイチ。
そうですね。今回の試聴で改めてそう思いました。
――(分解したMarty101を見ながら)3本の釘でスピーカーを支えているんですよ。一切、筐体に触れていない。宙に浮いている感じなんです。
なるほど、凄いな。これがタイム・ドメイン理論ですね。
なぜ良い音に聴こえるんだろうと、考えたんですよ。やはり音の立ち上がりじゃないかなと。
(小さいのに)低音も聴こえるんですよね。不思議ですね。
――倍音が出るので、「うなり」みたいなのが聴こえるんですよ。楽器と同じだと思います。
アコースティックなスピーカーですね。
――今日は「Yoshii9」を聴かれてどうでしたか?
最初はJupity301が鳴ってると思ったんですよ。
音のタイプとしては同じ質だと思いましたね。素晴らしい音場表現。
ただ聴き比べると(「Yoshii9」が大きい分)、量感の差は感じました。
しかしながらMarty101もJupity301も素晴らしい音で、タイム・ドメイン理論の正しさを伝えてくれていますね。
欲しくなります(笑)。
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